2015年11月下旬
僕26歳
彼女35歳
場の空気が一瞬で凍る感覚がした。
母「あんた、ただいまも言わずに…」
僕「ごめん、。ちょっと急用で…」
母親は立ち上がり、
タンスの中から3万をとりだし、
僕へ渡してきた。
母「なにかあったの?これで足りる?」
そう、僕を心配そうに見つめる母。
僕は目を合わすことができなかった。
本当は言いたかった。
彼女と上手くいっていない中、
妊娠が発覚した事。
職場の上司に目をつけられている事。
所持金があと150円しかない事。
でも、
プライドの高い僕が、
そんな事を言えるはずがない。
でも、
これだけは言おう。
僕「大丈夫!あ、あと、彼女が妊娠したんだ。
来月、籍を入れる予定。」
母親は、
目を大きく見開き驚いた。
母「あんた!なんでそんな大切な事を言わないの!!」
怒ったような、
でも嬉しそうな、
そんな表情の母親の姿に
いろんな意味で泣きそうになった僕。
僕「お金、ありがとう。ちゃんと返す。
また、彼女連れて遊びに来るよ。」
そう目を逸らしながら母親に伝える事が、
精一杯だった。
母親は、
何故僕が突然お金の無心に来たかは
何も聞かなかった。
まあ、当時の僕は聞かれたところで、
僕は答えなかったか…。
そそくさと実家を後にする僕。
適当な対応。
彼女の妊娠を今の今まで
黙っていた僕。
そして、
理由も言わず、
母親から3万を貰った僕。
なにをとっても、
親不孝
そんな自己嫌悪に陥った。
だが、
そんな気持ちも数分車を飛ばし、
徐々に変わっていく。
給料日は明日。
手元に3万円。
母親にはちゃんと返さなくては。
感謝の気持ちを込めて、
4万とかでかえそうか…
パチンコで増やそう。
その思考になるのに、
時間はかからなかった。
僕は、
母親から無心した3万を持って、
パチンコへ向かった。
そういえば僕は、
まともに勝った事がない。
今までは、
ストレス発散
という名目で、
あのうるさい場所へと足を運んでいた。
でも、なんだろう。
今日の僕は、
何故か
勝てる
そんな自信があった。
”いつも”のパチンコ屋へ向かい、
端の席へと座る。
早速、1万円を台に入れた。
そしてその日僕は、
大勝したんだ。
3万が気付けば
15万になっていた。
この時の記憶もあまりない。
しかし、
湧き出るアドレナリン、
激しい効果音、
周囲の人間からの目線。
快感だった。
彼女との関係も、
H課長も、
パチンコを打っている時だけは
忘れることができたし、
僕はすごい人間なんだぞ
と、粋がることもできた。
閉店時間になり、
定員に声を掛けられ
我に返った。
そのままぼーっとした頭で、
換金所へ向かう。
本当に、15万を儲けることができた。
車に乗っても冷めない興奮。
何度も札を数え、
何度も勝った喜びを噛み締めた。
会社をずる休みした事。
更に元金の3万は、
母親が心配して僕にくれたお金。
そんな事、
僕の頭の中からは消え去っていた。
#嫁あり。子あり。持ち家あり。1000万の借金有。