嫁あり。子あり。持家あり。         1000万の借金有。
妊娠報告 
妊娠報告 

妊娠報告 

2015年11月中旬

 

僕26歳

彼女35歳

 

 

行きたくない…

 

 

僕は朝からそう思い詰めていた。

今日は、

彼女の両親に妊娠した事を伝える日

だった。

 

 

 

同棲して、すぐに妊娠…

 

そして、そこから

彼女とは不仲になりつつある現状。

 

 

ああ、

逃げ出したい…。

 

 

そんな事を思いながら、

身支度を整えていた。

 

 

 

彼女「今日、大丈夫…?」

 

なにかを察したのか、

彼女が話しかけてきた。

 

「大丈夫。」

 

彼女にふっと笑いかけたが、

多分目は死んでいたんだろう。

 

 

彼女「本当に…大丈夫?」

 

そう心配そうに、

僕に問いかける彼女。

 

 

なにが、

大丈夫なんだろう。

 

冷静にそう思う。

 

このまま、結婚して

大丈夫って事?

子ども産んで、

大丈夫って事?

仕事大丈夫?って事

 

お金、大丈夫って事?

 

 

全て大丈夫な訳がない。

 

 

 

素直に伝えればよかったのに、

やはり男のプライドなのか、

僕自身の見栄なのか、

 

 

大丈夫だから。

頑張るよ。

 

 

そう、僕は彼女に伝えていた。

 

 

 

 

 

彼女の家に着く。

車で10分ほどの距離だ。

着くな…

着くな…

と心の中で念じていたが、

あっという間に、

駐車場へ到着した。

 

 

大丈夫

 

 

本当に、

何が大丈夫なんだか…。

 

 

そんな事を思いながら、

車のエンジンを切る。

 

家から、彼女の実家に着くまで

僕たちは一度も言葉を交わしていなかった。

 

 

 

 

彼女「ただいま」

 

そう家の玄関で挨拶する彼女。

 

僕「お邪魔します」

 

そういって僕も家へ入る。

 

彼女の母親が小走りリビングから出てきてくれた。

 

 

母「おかえりなさい!寒いわね、

  とりあえず、お父さん今出かけてるから、

  リビングで待っててちょうだい」

 

 

 

 

 

 

僕はリビングのソファに腰かけた。

 

その間にも、

なんとも言えない気まずい雰囲気が流れる。

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

扉の開く音が聞こえ、

彼女の父親が帰ってきた。

 

 

父「おお。いらっしゃい」

 

そういって、にこやかに話しかけてくれた。

 

 

少々の間、彼女の両親と

たわいもない話をした。

 

仕事はどうだ

とか、

同棲生活はどうだ

とか、。

 

 

そのすべてが、

当時の僕にとって

苦しいものだった。

 

上手くいっています

 

 

そういうしか、なかった。

 

 

 

 

 

次第に、話すことが少なくなり、

徐々に無言の時間が多くなった時、

 

 

彼女「今日は話したいことがあってきたの」

 

そう彼女が話を切り出した。

 

 

 

彼女の両親は、

なにかを察したのか

姿勢を立て直した。

 

 

彼女が僕に目で合図する。

 

 

 

僕「実は、彼女が妊娠をしました。

 子供ができたんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の両親の顔を見ることができなかった。

 

この沈黙が苦しい……

 

 

 

 

そう、身構えていた僕。

 

 

 

 

 

 

 

「よかったじゃないか」

 

 

 

 

 

 

そう、囁くように言ったのは

彼女の父親だった。

 

 

 

 

父「おめでとう」

 

 

 

そこにいた彼女の父親は、

今までに見たことがないくらい、

優しく、穏やかな表情だった。

 

 

 

 

 

 

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