2015年11月
僕26歳
彼女35歳
パチンコで負けた翌日。
コンビニのATMでお金を下ろそうとした時、
ようやく自分の残高に気づいた。
約5万円
昨日パチンコへ行った際、
無意識のうちに
駐車場に設置してあるATMで
いくらか下ろしていた。
その時点で、
給料日まであと15日以上あった。
でも僕は、
なんとかなる
そう思っていた。
いや、
そう思いたかったのだ。
それに、
パチンコで
勝てばいいじゃないか
僕の脳は、
完全に狂い始めていた。
会社につき、
H課長の表情を確認する。
それが、僕のルーティーンに
なっていた。
今日はそこまで機嫌は悪くなさそうだ。
そう僕が安堵した時、
H課長「おい!!!ハタムラ!!!」
急にH課長が僕に怒鳴ってきた。
僕「…はい。」
そういうと、H課長は不敵な笑みを
浮かべた。
H課長「お前、仕事もろくにできない癖に、
残業代はいっちょ前に貰ってんだな」
…?
僕「……はい」
その後、H課長は何も言わなくなった。
なんだ…?
残業するなって事か…?
ただ、その日は特にH課長からの攻撃もなく、
一日を終える事ができた。
帰りにいつも僕を気遣ってくれる
B先輩が声を掛けてきた。
B先輩「ハタムラ、大丈夫か?」
僕「あぁ、完全に目を付けられましたよ…」
B先輩「あの人、本当ヤバいよな。
何かあったらすぐ言えよ。」
B先輩は、僕が入社してからというもの
何か僕がミスをした時などに
いつも一番に手を差し伸べてくれていた。
しかし、
その時の僕は
そんなB先輩の優しさが
ウザく感じた。
…
何かあったら?
こんなにH課長に言われてるのに、
何かあったらってなんだ?
結局この人(B先輩)も、
他人事なんだよな。
偽善者ぶってて本当にうざい。
H課長からの理不尽な攻撃、
勝てないパチンコ。
そして、
よく分からない彼女。
僕はとにかくイライラが
止まらなかった。
自宅に帰る。
時間は夜20時頃。
部屋の電気はついていた。
いつもなら、
彼女は寝ている時間だ。
…今日は起きているのか。
そんな事を思いながら
ドアを開けた。
すると、彼女が目の前に立っていた。
僕「!?ビビった……ただいま…?」
彼女「おかえり。」
どうしたんだ…?
僕「どうしたの?寝られない?」
そう聞き返すと、
彼女は右手を出してきた。
彼女「ごめん、明日産婦人科行くんだけど
お金が足らなくて…。5000円もらっていい?」
…
あああああああああ
いつもそうだ。
お金がほしい時しか、
僕を出迎えてくれない…。
少しくらい、
貯金はないのか?
僕は何も言わずに
財布のを取り出す。
財布の中には
3000円しか入っていなかった。
僕「2000円でいいかな」
1000円は明日の食費だ。
これを渡すと、
またコンビニでお金を下ろさなくてはならない。
彼女「……分かった」
彼女に2000円を渡す。
今なら分かるんだ。
当時、僕は妊娠した彼女の心配を
一切していなかった。
ずっと寝室で寝ていたというのもあるが、
自分の事で精一杯だったんだ。
彼女はそれがとても不満だったんだと思う。
彼女「次の日曜日、親に妊娠した事を
伝えるから。あけておいてね。」
そういって、彼女は寝室へ行ってしまった。
リビングは暗かった。
テーブルの上には、
サトウのごはんと納豆が置いてあった。
そういえば…
今月、生活費を渡していないな…
そう思いながらご飯を温め食べた。
僕の人生ってなんなんだろう。
このまま、どうなるんだろう。
ダメだ…
本当にイライラが収まらない。
僕はどうしたんだ。
ただ一つ。
そんな気持ちの時でも
パチンコへ行きたい
その気持ちは持ち続けていた。
そして、
YouTubeで
”パチンコ 必勝法”
と検索をかけ、
深夜まで動画を見漁っていた。
なあ、僕。
彼女のおなかの中には
お前の子どもがいるんだよ。
頼むから、大人になってくれよ。
今の僕の願いなんて
届くはずもない。
人間、堕ちる時は本当に一瞬なんだ。
財布の中には1千円
口座の中には5万円
次の給料日まであと15日
そんな状況にも関わらず、
パチンコへ行きたい
ただひたすら、僕はそう思っていた。
そして、次の日から
更なる地獄が始まる事を
その時はまだ気づいていなかった。
#嫁あり。子あり。持ち家あり。1000万の借金有。